マーシャルアイランドで事業を行っていない会社のことをいいます。
I. 総論
II. 会社の目的と権能
III. 送達とRegistered Agent
IV. 会社の成立と名称
V. 会社の資金調達
VI. 会社の経営
VII. 株主
VIII. 会社の帳簿および報告
IX. 基本定款の変更
X. 合併、資産譲渡
XI. 解散
XII. Foreign Maritime Entity
XIII. Domestication
本Q&Aは、マーシャルアイランドで設立された、Business Corporations Act(以下「マーシャル会社法」または「BCA」といいます。)§2(j)の「non-resident corporation」(以下「マーシャルSPC」といいます。)に関するマーシャル会社法の枠組みを記した資料です。参照の際には、末尾「ご留意事項」をご一読下さい。
本Q&Aが、マーシャルSPCを通じて事業を展開する日本企業の皆様の一助となれば幸いです。
マーシャルアイランドで事業を行っていない会社のことをいいます。
マーシャル会社法によりRegistrarとして授権された、The Trust Company of the Marshall Islands, Inc.がマーシャルSPCの登録事務を行います。
Registrarに所定の書類を提出し、基本定款の登録料(fees on filing of Articles of Incorporation)を支払うことにより、マーシャルSPCの設立と登録を行います。
マーシャルSPCは、マーシャル会社法により、法人税(corporate profit tax)、源泉税(withholding tax on revenues of the entity)共にマーシャルアイランドにおける納税義務が免除されています。
マーシャルSPCのマーシャル会社法に関する事項は、マーシャル会社法13条により、デラウェア州その他のアメリカ合衆国の州の法律における類似の条文と一体として適用、解釈され、マーシャル会社法と矛盾抵触しない限り、デラウェア州その他のアメリカ合衆国の州の類似する非成文法規がマーシャルアイランドにおける法律として適用されます。
合法な事業目的である限り、目的に制限はありません。ただし、保険の引受、信託業、銀行業務については例外があります。また、マーシャル銀行法(Banking Act 1987(17 MIRC, Chapter 1))の規制対象の事業を行うためには、事業を行う当地で必要な許認可を得ている必要がある点にご留意下さい。
会社の行為は、会社の目的または権能外(ultra vires)であるという理由によっては無効になりません。ただし、株主が行為の禁止命令を求めて裁判所に申立てることや、会社が代表訴訟により取締役(director)および役員(officer)に対し損害の賠償請求をすることなどは可能です。
会社は、法人(legal entity)として株主から独立した権利義務の主体となり、訴訟手続における原告、被告などの主体になることが可能になります。
法律で別途規定がある場合を除き、取締役(director)、役員(officer)、株主(shareholders)のいずれも、会社の行為に対する責任を負いません。
Registered Agentは、マーシャルアイランド内において、訴状、通知、請求等の送達を受領します。
The Trust Company of the Marshall Islands, Inc.です。マーシャル会社法にその旨規定されています。
他の法令で認められる限り、可能です。
個人または法人、単独または共同いずれでもよく、居住地、国籍等による発起人(Incorporator)の資格に制限はありません。なお、マーシャルSPCの場合には、実務上、法人の設立・登録の申請により、発起人によって設立手続がおこなわれるのが一般的です。
マーシャルSPCの名称には、(1)自然人またはパートナーシップではなく、会社であることが明確に判る単語(incorporated、limitedまたはその略称など)が付されていること、および(2)登録済の会社の名称と重複しないことの2点の制限があります。
基本定款(articles of incorporation)の主な必要記載事項は以下のとおりです。
発起人が基本定款(articles of incorporation)に署名し、Registrarに届出を行います。
基本定款(articles of incorporation)の届出日付で会社としての存在(corporate existence)が認められます。
基本定款(articles of incorporation)の提出後、発起人(incorporator)等による創立総会(organization meeting)の開催または書面による合意を行います。なお、マーシャルSPCの場合には、実務上、法人設立・登録手続の中で、発起人が書面による合意を行うのが一般的です。
付属定款(bylaws)は、発起人(incorporator)等によって作成することが可能です。マーシャルSPCの場合には、実務上、IV.Q6.の発起人の書面による合意で採択されることが一般的です。付属定款の変更は株主の決議により行うのが原則で、基本定款(articles of incorporation)または付属定款に定めがある場合には取締役会の決議により付属定款の変更を行うこともできますが、株主は、取締役会の決議により変更された付属定款を変更することが可能です。
付属定款(bylaws)の記載事項には、マーシャル会社法その他の法令に反しない限り制限はありません。
マーシャルSPCの株式の種類には、議決権行使に関する優遇・制限等を行う種類(class)株式、配当優先株式への転換権付株式(convertible shares)、強制償還株式(redeemable shares)、単元未満株式(fractional shares)等があります。
基本定款(articles of incorporation)、付属定款(bylaws)、株主間または株主・会社間の合意により株式の譲渡を制限することが可能です。譲渡制限を実施する前に、譲渡を制限される株主の合意と、株券への譲渡制限の記載を必要とします。
株式の引受(subscription)は会社設立の要件ではないため、株式の引受は会社設立前、設立後いずれにも行うことが可能です。引受方法は、引受人による株式引受の合意と、取締役会で定められた対価(consideration)の会社への払込みにより行います。
引受人(subscriber)は、会社への対価(consideration)全額の払込完了時に、株主としての権利を取得します。
1種類(class)の記名式(registered form)株式のみを発行する会社の場合には、株券に以下の事項を記載し、取締役、役員が署名します。なお、マーシャルSPCの場合には、実務上、法人設立・登録手続の際に、株券のフォームが交付されることが一般的です。
会社が、支払不能(insolvent)の状況にある場合、配当により支払不能になる場合、または基本定款(articles of incorporation)に規定された制限に反する場合には、株主への利益配当を行うことができません。また、利益配当は剰余金(surplus)から行う必要がありますが、剰余金がなくても配当を行う事業年度またはその前事業年度の純利益(net profits)から行うこともできます。
マーシャルSPCの場合には、法人も取締役に就任することが可能です。
最低1名以上必要です。付属定款(bylaws)、株主の決定または付属定款に基づく取締役会の決議により、人数を固定することも増減することも可能です。
年次株主総会(annual meeting of shareholders)における選任から次の年次総会までです。取締役は、任期が満了し、かつ、後任の取締役が選任され資格を取得するまで在任します。
取締役は、正当事由がある場合には、株主の決議により解任することができます。基本定款(articles of incorporation)または付属定款(bylaws)に定めがある場合には、正当事由がなくても株主の決議により解任することができます。
取締役の意思決定は、原則取締役会における過半数の出席取締役の賛成または全取締役による書面合意によります。取締役会へは、通信機器(Communication equipment)を通じて出席することが可能であり、また、書面合意も 、電子送信によることが可能です。
会社は、取締役のほか、秘書役(secretary)最低1名を設置する必要があります。秘書役は、取締役会の決定または基本定款(articles of incorporation)または付属定款(bylaws)に定める方法により選出されます。
株主総会(meeting of shareholders)には、年次総会(annual meeting)と臨時総会(special meeting)の2種類があります。株主の意思決定は、株主総会における原則過半数の出席株主の賛成または議決権を保有する全株主による書面合意によります。書面合意は、電子送信によることも可能です。また、2020年5月施行の株主総会規則(Shareholder Meeting Regulations 2020)により、株主総会においても遠隔通信(remote communications)によって総会に参加して議決権を行使することができることが明確になりました。
年次株主総会(annual meeting)を適時に開催していないこと、または事業の遂行に足りる人数の取締役を選任していないことを理由に、当該取締役が行った会社の行為は原則無効になることはない旨マーシャル会社法64条3項に規定されています。よって、再任決議の有無は契約書の効力に影響を及ぼしません。ただし、取締役は、可能な限り速やかに株主に年次総会を開催させる必要があります。
付属定款(bylaw)または付属定款に定めがない場合には取締役会は、議決権行使、配当受領などの株主としての権利を有する株主を決める基準日(record date)を設けることが可能です。ただし、基準日は、株主総会日の60~15日前(株主総会以外に関する権利の場合は行使日前60日以内)である必要があります。
会社に対して権利を行使できる株主は、基準日(record date)時点で株主として登録されている者および無記名株式(bearer shares)の保有者です。保有株式に質権を設定している株主も、株主名簿に質権者に株主としての権利行使を認める旨の記載がない限りは、株主としての権利を行使することができます。
マーシャルSPCには、会計帳簿(accounting record)を作成し、会計帳簿と作成の基礎とした書類(underlying documents)を保存する義務があります。会計帳簿は、すべての取引および財務状況を正確に説明するに足りる内容で、かつ、これをもとにⅧ.Q6の財務諸表(financial statements)の作成が可能な程度のものである必要があります。マーシャルSPCから政府への会計帳簿の届出義務は原則課されていません。しかし、会計監査目的または政府からの要請により、Registered Agentより要求された場合には、マーシャルSPCは、これらの書類を提出する義務があります。また、Registered Agentは、財務大臣(Minister of Finance)またはその指定する者から法令に基づいて要求された場合には、マーシャルSPCより提出を受けたこれらの書類を財務大臣に対して提出する義務があります。
マーシャルSPCには、株主総会議事録(株主合意書)と取締役会議事録(取締役合意書)を作成し、保管する義務が課せられています。
マーシャルSPCには、株主・受益者名簿(record of shareholders and beneficial owners)を作成し、保管する義務が課せられています。名簿への記載事項は登録株主(registered shareholder)の氏名および住所、保有する株式の数、種類(class)および数、登録日です。さらに、無記名株式(bearer shares)を発行している場合には、無記名株式の数、種類、発行日を含む株券への記載事項です。
株主、議決権信託証書(voting trust certificate)の保有者またはその代理人は、株主としての利益に合理的に関連する目的で、株主名簿(share register)、会計帳簿およびすべての議事録の調査(inspection)および謄写を求めることができます。
マーシャルSPCは、原則取締役および役員の届出の義務はありません。しかし、会計監査目的または政府からの要請に基づいて、Registered Agentより要求された場合には、取締役および役員の一覧を提出する義務があります。また、Registered Agentは、財務大臣(Minister of Finance)またはその指定者から法令に基づいて要求された場合には、一覧を財務大臣に対して提出する義務があります。
6か月以上連続して株式を保有する登録株主(shareholder of record)または議決権割合5%以上の株主は、書面による要求により、前事業年度の貸借対照表および損益計算書の作成を求めることができます。ただし、会社には、貸借対照表および損益計算書の作成に必要な合理的期間が付与されます。
会社の基本定款(articles of incorporation)の変更は、原則、議決権の過半数を有する株主の同意に基づき、Registrarに対して変更事項を記載した変更定款(articles of amendment)または変更前の基本定款(articles of incorporation)に変更事項を反映した変更後基本定款(restated articles of incorporation)の届出を行い、手数料を納入することにより行います。
会社の合併には、2社以上の当事会社(constituent corporation)のうち1社が存続会社(surviving corporation)として他の当事会社を吸収する吸収合併(merger)と、2社以上の当事会社が新設会社(consolidated corporation)に統合される新設合併(consolidation)の2種類があります。
合併は、各当事会社(constituent corporation)ごとに、(1)取締役会における合併計画(plan of merger/plan of consolidation)の承認、(2)株主による合併計画の承認、(3)吸収合併定款(articles of merger)または新設合併定款(articles of consolidation)の作成とRegistrarへの届出、(4)Registrarへの登録料の支払い、という手続きにより行います。ただし、株式保有割合90%以上の会社を吸収合併する場合には、存続会社、被吸収会社いずれの株主によっても(2)の合併計画への承認は不要です。
合併の効力は、吸収合併(merger)の場合は吸収合併定款(articles of merger)、新設合併(consolidation)の場合は新設合併定款(articles of consolidation)の届出時(届出から30日以内の日を指定した場合はその日)に発生します。
合併の各当事会社(constituent corporation)の権利義務は、吸収合併(merger)の場合は存続会社(surviving corporation)が、新設合併(consolidation)の場合は新設会社(consolidated corporation)が承継します。
マーシャルSPCと外国会社(foreign corporation)との合併は、合併する外国会社にそのような合併を許容する規定がある場合、マーシャル会社法と当該外国会社が準拠する法律の規定に則って行うことにより可能です。
会社がその全資産または実質的にすべての資産の売却(sale)、賃貸(lease)等の処分を行う場合には、その会社によって実際に行われている通常の業務の過程による場合(in the usual or regular course of the business actually conducted by such corporation)を除き、取締役会と株主の承認を得る必要があります。ただし、会社の資産に対する質権(pledge)若しくは抵当権(mortgage)の設定または担保権の設定(creation of a security interest)は、取締役会の決議により可能です。
会社の解散(dissolution)は、(1)株主総会における総議決権の3分の2以上の株主による賛成または全株主の書面による合意と、(2)Registrarへの解散定款(articles of dissolution)の届出により行います。
解散(dissolution)の効力は、解散定款(articles of dissolution)をRegistrarに届け出たときに発生します。ただし、Registrarに対する未払いの費用がある場合には、支払が完了するまで解散の効力は発生しません。
会社の解散(dissolution)後3年間、原告または被告となっている訴訟の追行、事業の終了の準備、資産の処分、株主への残余財産の分配等の清算(winding up)の目的のため、会社は存続します。清算中の会社は事業を行うことはできません。これらの業務は、会社の取締役が受託者(trustee)となって行います。マーシャルSPCの場合、債権者への通知は任意です。
申請資格を有するのは、以下のすべての要件を満たす組織です。
FMEの登録は、Registrarに所定の書類を提出し、登録料を支払うことにより行います。
Foreign Maritime Entityは、マーシャルアイランドにおける海事法規における要求を満たすことを条件として、マーシャルアイランド籍の船舶を所有および運航し、所有および運航に必要なすべてのことを行う権能(power)を有します。
外国会社によるマーシャルアイランド法人への国籍変更(domestication)は、Registrarに、(1)国籍変更定款(articles of domestication)、(2)転入元の基本定款(underlying articles of incorporation)、(3)マーシャルアイランドの基本定款、(4)会社の存在を証する書面、(5)Registered Agentの就任承諾書の届出を行い、所定の手数料を納入することにより行います。
Articles of domesticationの主な必要記載事項は以下のとおりです。
Domesticationの効力は、原則国籍変更定款(articles of domestication)の届出時に発生します。
マーシャルアイランド法人から他国への転籍(transfer of domicile)が可能なのは以下の要件を満たす場合です。